疑似体験:KPIツリー

テキスト
金巻未来
写真
児玉太郎
編集
川辺洋平

Translated by DeepL

「大きなゴールに向かう中で、自分も役割の一部を担っている。」誰もがそんな想いをもって働けたら、もっと働く意義を見いだせるようになるのではないか。――そう考えているのはアンカースターのデータサイエンティスト、黒柳茂。黒柳は、KPIツリーを用いて、組織のビジョンやミッションのために「なぜ、なにを指標にするのか」まで一歩踏み込んだパートナー企業との対話を繰り返している。その思想の背景にある原体験に迫った。

黒柳茂(くろやなぎ しげる)ーー データサイエンティスト。早稲田大学理工学部を卒業後、日本マイクロソフト、フェイスブックジャパンなどを経て、機械学習モデル構築、データプロダクト開発、データサイエンティスト及びデータエンジニアのマネジメントに従事。アンカースターではデータを活用した新規事業開発や、組織変革支援を担当。趣味はAIアート制作、サ活。

――黒柳さんはどういう経緯で現在のデータサイエンティストという働き方に至ったんですか?

Facebook Japan(以下、Facebook)で働いていた時の影響が大きいですね。当時、僕は営業の部署にいたんですけど、パートナー毎にカスタマイズされた営業資料を作るために、Facebookは自社サービスに関する様々な数字を見る権限が誰にでもあったんです。そこでデータの持つパワーに魅了されて、Facebook社内のトレーニングを経てデータサイエンティストになりました。

――データが持つパワーっていうのは要するに説得力みたいな感じですか?

そうですね。まさにFacebook内では“Data wins arguments.”という言葉がよく使われていました。直訳すると「データは議論に勝つ」。つまり、データがあれば、役職に関わらず、誰でも同じ説得力を持つことができるっていう考え方です。

――なるほど。今はデータサイエンティストとして、具体的にはどんな業務を担当してるんですか?

アンカースターではデータを分析することに加えて、最近はKPIツリーを作るワークショップを実践して「どうデータを集めて、何を指標にすると目的が達成できるんだっけ?」という組織のビジョンやパーパスにまで踏み込んだところまでをパートナー企業と一緒に探究してます。

「KPIツリー」はゴールまでの道筋を見える化してくれる

――「KPIツリー」って耳慣れない人も多いと思いますが、具体的にどういうものなんでしょう?KPIだけだったらビジネスでいう達成目標みたいなものですよね?

まず、KPI (Key Performance Indicator) は、よくビジネスの世界では使われていますが、日本語では「業績評価のための重要な指標」と言われています。

たとえば、うどん屋さんのビジネスを例にあげると、うどん屋さんには、来客数、客単価、リピート率、利益率など、指標にできる数字が何種類かありますよね。これらの重要な指標のことを「KPI」って呼んでいます。これら複数のKPIによってある程度業績を評価することができるんです。

――なるほど。KPIって複数あっていいんですね。となると「KPIツリー」というのは、その複数のKPIを、ツリー構造にまとめたものということですか?

正確にいうと、下図のようにKPIツリーは「『複数のKPI』と『最終的なゴール』の関係性を図式化したもの」です。その『最終的なゴール』は「KGI」と言われています。

KGIは「Key Goal Indicator」の略で、日本語だと、「目標達成のための重要な指標」と言い換えられます。

――KPIツリーは「KGIに向かうためにどのようにKPIを設けるか」を図にしたものなんですね。でも、KPI同士の関係性ってどう示すんですか?

たとえば、先に挙げたうどん屋さんを例にしたKPIを作ってみると下図のような感じになります。KPI同士の関係性を四則演算を使って見える化することがとても重要なんです。

――抜け漏れのない状態が気持ちいいですね。論理的というか。黒柳さんがKPIツリーに詳しくなった背景には何かご経験があったのでしょうか?

僕はこれまで3回転職をしているんですが、どの組織でもKPIツリーを活用した業務改善を経験してきたので作り慣れているという感じはあります。さっきはうどん屋の例を使ったけど、大きな組織やビジネスになると、下図のようにKPIツリーがもっと複雑になってきます。

これをチーム全員で可視化していくと「ここのKPIを上げれば一気にKGIに近づくね!」というような、思いもよらない施策が見えてきたりするんです。

――社内共通の図を見て話すことで、全員の足並みも揃えられそうですよね。

そうなんです。まさにKPIツリーを作る作業をチーム全員で行うと、その過程で「そのチームの中で本当に重要視するべきものは何か」を議論することができます。逆にいうと、KPIツリーがあって初めてパートナー企業と「達成したい指標は本当にこれですか?」「そのKPIは本当に重要ですか?」っていう話ができるようになるので、データサイエンティストの仕事にKPIツリーの作成は欠かせないです。

話して行く中で本当に達成すべきKGIが見つかって、KGIがガラッと変わることもあります。利益をKGIに設定していたけど、やっぱりユーザー数でしたとか。

KPIツリーでビジネスパーソンの働き方を変えたい

――つまり、KPIツリーが社内コミュニケーションを円滑にする共通言語になっているわけですね。

左:黒柳さん 右:川辺編集長

そうですね。加えて言えば、僕もKPIツリーを作って働いていた経験者として、役割分担が明確になるのもKPIツリーを作成するメリットだなと思います。全体の目標の中にたくさんの指標があって、自分はどこを担当しているんだ、という自負が生まれるんです。

――「私はこのKPIを担っている」という責任感が持てるというような意味?

そうそう。特に大きな組織に属していると、自分のやっていることが組織のゴールに対してどれくらい貢献しているのか実感しづらいですよね。でも、「ここを私が担っている」という自負を持つことができれば、自尊心につながるんです。

――自尊心も生まれるだろうし、よーしやるぞ、というモチベーションになりそう。

そう思います。所属している組織のかかげている大きな目標に対して、自分がどのように役に立っているかという理解が加わることは日々の仕事を生き生きとさせるはずです。

Facebookの創業者、マーク・ザッカーバーグがハーバード大に向けて行ったスピーチでこんな話をしていました。ケネディ大統領が、NASAを訪問したときのストーリーです。ケネディがNASAの清掃員に「何をしているの?」と尋ねたところ、彼は「私は人類を月に運ぶ手伝いをしている」と答えたそうです。

その清掃員は常に綺麗な環境を整えるというKPIを担っていて、それが人類を月に運ぶというKGIに繋がっているKPIツリーを自身の中で持っていたからこそ、プライドを持って職務を果たしていたのだと確信しています。「大きなゴールの中で、自分もその一部を担っている。」一人ひとりがそんな自覚を持って働ける社会になったらいいなと思っています。

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