そういうことか
Anchorstar内装工事前(2016年)
あけましておめでとうございます。
2015年11月に創業したアンカースターは、創立10周年を迎えました。設立当初は、今思えば無責任なのですが、特に目指すべきゴールも設定せず、成り行きに任せていくしかない、と思ったものです。でも10年を振り返ると、仲間もパートナーの皆さまも、一緒になって、そんな不可解なアンカースターの活動になんとか意味を持たせようとしてくれて、それらが繋がったり、積み重なったりしながら、今に至っている。つまりは、全て皆さまのおかげでここまでこれたということに、至らなさと、恥ずかしさと、とにかく感謝でいっぱいです。
という、創立10周年を無事に迎えられたことのお礼の文章を考えていたら、ふと、ある言葉が浮かんできて、それが頭から離れなくなりました。
「そういうことか」
10年を振り返ると、とにかく本当に色々なことがありました。落ち着きのない会社で、毎年違うことをやっているように見えるんだけど、自分たちの中にはちゃんと一貫性があった。その一貫性の正体、アンカースターの活動の踏み台のようなもの、それはもしかしたら「そういうことか」だったんじゃないかと考えだしたら、まさに「そういうことなのか!」ってなりました。
ということで、今年は「そういうことか」ではじめてみようかと思います。
私が覚えている、最初の「そういうことか」は、10歳のころ。
小学校5年生の夏、私の家族は横浜を離れ、ロサンゼルスに引っ越しました。親の仕事の関係で、と言いたいところなのですが、特に親の仕事の関係ではなく、あまり深い理由はなかったような気がします。今となってはもちろん感謝していますよ。
突然現地校に放り込まれた私は、もちろん一言も英語が話せませんでした。学校の初日、先生が何を言っているのかさっぱりわからないので、ただそこに座っていました。怒っているわけないのに怒ってみえた先生に、ランチは持ってきていないことを一生懸命に伝えようとしたのを、いまでも覚えています。
クラスでは、恐怖の朗読の時間がありました。みんなの前で文章を大きな声で読まなければなりません。私は席を立って、文章を読むのですが、どうしても"stopped"(ストップド・止まった)が読めませんでした。何回読んでも"stupid"(ストゥーピッド・馬鹿)になっちゃうんです。何回読んでも"stupid"になるので、クラスは大爆笑。先生は怒っています(多分怒ってない)。
授業が終わって、ちょっとしょんぼりしていたタロウ少年に、優しいクラスメートが近づいてきて"stopped"の反復練習をしてくれました。何度か練習しているうちに
「そういうことか!」
となった、というのが、私が覚えている一番最初の「そういうことか」の記憶です。すみません。ここまでが長くて。
仕事をするうえで、鮮烈に覚えている「そういうことか」は、だいぶ大人になってから。
2000年代はヤフーでがむしゃらに働きました(実際のところは、働いた感覚は全くなく、仲間に入れていただいていた、という感じ)。そのころ私は、世の中の新しいサービスやプロダクトは、イケてる企画者やプロデューサーによって、ある種の魔法のように創造されるもの、だと思っていました。Yahoo! JAPANはそのような「神企画」とか、ちょっと大げさですが「後世に語り継がれていくレベルの伝説」などによって成り立っている、と信じていたのです。目指すは「ヒットを生み出す伝説の企画者」でした。実際にいまでも当時の仲間たちと同窓会をすると、数々の伝説話で盛り上がります。
2010年になり、私はFacebook社(現Meta社)に転職し(実際のところは、転職した感覚は全くなく、大事なプロジェクトの仲間に入れていただいた、という感じ)、重大なことに気が付きました。Yahoo!ニュースやYahoo!知恵袋など、たくさんのサービスを企画・運営していたYahoo! JAPANと違って、当時のFacebook社には、サービスが「Facebook」の1つしかありませんでした。そして、そこにあったのは、魔法ではありませんでした。あったのはプロセス。仮説を立て、検証し、失敗し、また試す。それを、大きな組織で繰り返す。地味で、泥臭くて、でもとにかく確実な方法。
「なんだ、そういうことか」
と私は思いました。天才である必要はなかったのです。ちゃんと考えて、ちゃんと動けば、新しいものは作れる。魔法が使えなくても、ちゃんと価値は出せることを実感したのは、私にとってとても大事な発見でした。
もうひとつ「そういうことか」を紹介させてください。
息もつけない勢いで急成長するグローバル企業で働く日々は、自分が未熟なのはもちろん、慣れない言語の壁や、経験したことのない文化の違いもあって、その存在は感じるが目には見えない強大な波の力みたいなものに、海藻の様に漂うことしかできない、みたいな感覚でした。でも、ただ漂っているだけだと無価値だと思って、その波に逆らって無理に泳ごうとすると、体が引きちぎられそうになって、また海藻に戻る。そして、そんな熾烈な環境の中で、イキイキと働いている外国人(ここではあえて外国人とさせてください)の同僚たちは、自分とは違う、別次元の生物だと思っていました。
でも少しずつ、巨大なからくり時計の構造がわかってきました。「ああ、この部署はこういう考え方をしていて、その中で、この人はこういう立場だから、だからここでこういう発言が出るのか」に「そういうことかー」と感じることが増えてきました。それと同時に、その構造にうまくハマることができず、苦労している同僚たちの存在も見えるようになりました。つまるところ、シンプルに、みんな本当に頑張っていました。日本人だからとか、外国人だから、ではなかった。
そりゃ「にんげんだもの」→「そういうことか」となりました。
2015年、御縁に恵まれて、私はアンカースターを立ち上げることになりました。
冒頭でも触れましたが、正直に言えば、明確な計画などありませんでした。Yahoo! JAPANやFacebookでの経験が活かせると思って「海外企業の日本進出支援」というテーマは掲げましたが、実際は手探りというか、行き当たりばったりでした。
コワーキングスペースを運営し、海外企業のウェブサイトを翻訳したり、日本での協業相手を探したり、暫定的に某社の日本代表を名乗ったりもしました。次第に事業は国内企業の新事業領域の研究開発にも向きはじめ、海外出張を企画したり、海外エージェンシーと日本企業が協業する際の橋渡しに従事したこともありました。社内では好奇心から動画スタジオを作ってみたり、ニュースレターを発行したり、毎年異なる印刷技術を体験しながら年賀状を刷りました。近年では、英会話事業を始めて、外国人の社員がたくさん増えました。
「ただの思いつきで動いているだけじゃないのか」
と言われたら、あまり強く反論はできません。正直、その時々の、眼の前にあったことに必死に取り組んでいただけかもしれません。でも、不思議なことに、さほど不安はありませんでした。とんでもなく間違ったことをしているかもしれない、という感覚は一度もなかった。自分の中ではやっていることに一貫性がありました。それは、自分はもちろん、一緒に仕事をする仲間や、パートナー企業の皆さまの中に
「そういうことか」
というAha!な瞬間が、たくさん生まれていることを実感していましたし、それに価値を感じていたからです。「そういうことか」のあとに「ありがとう」と言っていただけることもあります。そういうときは、素直に「そういうことですよね!」って思えました。
ただ、この「そういうことか」は、慣れた環境の中ではなかなか訪れないかもしれません。
毎日同じデスクに座り、同じ人たちと話し、同じ種類の仕事をしているだけでは、大した疑問も生まれないから、大した気づきもありません。「そういうことか」というのは、自分の中にすでにある知識や経験と、外からやってきた異質な何かが衝突したときに生まれる火花のようなものかもしれません。
だから、外に出なければなりません。新しい場所へ、新しい人たちへ、新しい世界へ。
そう、だいぶ大人になってきて、少しわかってきましたよ。こうやって「そういうことか」が増えていくんですね、きっと。若い頃には感じることすらできなくて、ただ通り過ぎていたようなことが、色々な経験を積むことで「ああ、あれはそういうことだったのか」と腑に落ちる。それが積み重なって、やっと自分の住む世界のことがちょっとわかってくる。同時に想像力も身についてきて、もっと面白い未来に向けて自分ができることを見つけて、実行する力もついてくる。
だから私は、みなさんと一緒に、外の世界へ行きたいのです。
一緒に世界中を飛び回って、新しい景色を見て、想像したことのない常識に触れたい。そして一緒に「そういうことなのか!」と言いたい。
アンカースターが想像する未来の展望(ビジョン)を言語化しようとしたときに捻り出した「Envision More(もっと想像する)」というのは、そういうことなのだと思います。今見えているものだけで満足しないで、もっと先を、もっと深くを、もっと広くを想像する。そこには、たくさんの「そういうことか」がある未来。
アンカースターの日々の活動(ミッション)を言語化しようとしたときに捻り出した「Momentum for Progress(勢いこそ進捗)」も同じです。勢いをつけてグイッと前に進もうとするときに起きる衝突に「そういうことか」があるのでしょう。
もしかしたら、この記事を読んでくださっている人生の大先輩たちは、今頃こう思っているかもしれませんね。「タロウくん、そんなことで『そういうことか』なんて言ってるようじゃ、まだまだ何もわかっちゃいないよ」と。
おっしゃる通りでしょう。
いずれ、今の私が「そういうことか」と感動していることが、「ああ、あれはまだ入り口だったな」と思えるのでしょうね。
先輩方が今見ている景色に、私もいつか「そういうことか」と辿り着けるように。これからも懲りず世界中を飛び回ろうと思います。
2026年。今年もまた、みなさんと一緒に、たくさんの「そういうことか」を見つけて、驚いて、感動して。そして共に、まだ見ぬ未来を想像していきたいと思います。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
2026年1月
アンカースター
児玉太郎
Anchorstar内装工事前(2016年)