ブログ: Well, London.

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金巻

初めてのロンドン。歴史深いこの町を堪能するには短すぎる5日間。ほんのさわりだけの滞在となりましたが、また必ず戻って来ることを心に誓いました。ディープロンドンもいつかレポートできることを夢見つつ、まずは初心者ロンドナー(ロンドンの人の総称)なりに感じたことを、共有させてください。

地理のこと

ロンドンでまず感じたことは、とにかく「人がいっぱい」ということです。セントラルロンドンはもちろん、ショッピングエリアに行っても、グルメエリアに行っても、歴史的エリアに行っても、渋谷スクランブル交差点並みに混雑しています。人にぶつからないで歩くことができないレベルで、この人たちは一体どこから?と不思議に思うほどです。

チャイナタウン。セントラルロンドンには、歴史的な建築物をはじめ、ウェストエンド(シアターが集結するブロードウェイのようなエリア)やチャイナタウンなどの観光地が徒歩圏内に集結している。

現地の人になぜこんなに人が多いのか尋ねてみたところ、イギリスは島国であるにもかかわらず、ヨーロッパ本土(フランス)とは英仏海峡トンネルで繋がっていて、電車でも車でもドーバー海峡を簡単に横断することができる(車は電車の中にフェリーのように搭載するらしい)ので、各国から気軽に人が流れ込んでくる、とのことでした。イギリスはヨーロッパの皆様的には、陸続きの感覚みたいです。

実際、朝9時過ぎからのブレックファースト・ミーティングに来てくれた人が「7時にブリュッセル(ベルギー)で起きて、電車で海を渡ってロンドンまで来た」と言っていました。イギリスは地図を見る限り、日本と似たような島国だと思っていたので、ちょっとびっくり。私もいつか、パリで朝食にクロワッサンを食べてから、ロンドンでアフタヌーンティーを嗜んでみたいです。

歴史のこと

ロンドンといえば、歴史的建造物が惜しみなくそこにあり、うっとりしてしまうほどの美しい街並み、を想像していましたが、百聞は一見にしかず、本当にそのとおりでした。ロンドン塔(1078年築)やロンドン橋(1209年築)、バッキンガム宮殿(1703年築)やウェストミンスター寺院(960年築)など、世界史を構成する最も重要な歴史的建築物の数々がロンドン市内に点在し、それが日常生活の風景にごく当たり前のように溶け込んでいます。

セントラルロンドンの街並み

地震が少ないエリアが故に今でもその姿を保っているのでしょうか。コーヒー片手に、まるで歴史の教科書の中を行き来しながら日常生活を送るのは、ロンドンならではの魅力です。震災の度に町を作り直し、新しい高層ビルが立ち並ぶ東京ではなかなか味わうことができない感覚です。

セントラルロンドンの夜の街並み

さらに「ロイヤルファミリー御用達」を謳っている、こちらも歴史的価値をひしひしと感じる老舗の専門店がたくさん残っていることも印象的でした。ロンドン最古の店と言われる帽子屋さん(創業1676年)や、キングエドワードⅦ世をも唸らせた紅茶屋さん(創業1705年)など、日本でいうと江戸時代初期のころから、ロイヤルファミリーと共に歴史を歩み守ってきた伝統を、身近に体験することができます。

芸術のこと

ロンドンで最も驚いたことの一つは、美術館や博物館が無料だということです。無料期間だから、というわけではなく、そもそも入場料を取るという考えがありません。

入場料を取らないとなると、施設の構造が変わります。ヴィクトリア&アルバート博物館(1852年)とロンドン自然史博物館(1881年)に行ったのですが、まず、入り口や出口があっちこっちにあります。なにせ無料なので、どこからでも入れるし、どこからでも出られます。そして、どこから入ってもすぐに作品が展示されています。ふらっと入るとそこに名画がある、そこに恐竜がいる。みたいな感じです。

ロンドン自然史博物館(The Natural History Museum)

誰でも入れる公園に名画や彫刻がたくさん置いてあって、そこに壁と屋根がついていると言ったほうが近いかもしれません。これはとても違和感があるというか、常識が音を立てて崩れる感じがする体験でした。

ヴィクトリア&アルバート博物館(Victoria and Albert Museum)。入り口から入ってすぐこの状態でびっくり。

そして、入場料を取らないとなると使い方も変わってきます。

「雨が降ってきたので、ちょっと雨宿り」
「友達と作品の前で待ち合わせ」
「20分だけ暇つぶし」
「トイレを借りる」

といったことが可能になります。美しいものや知的好奇心が満たされるものが、こんなに身近で簡単にアクセスできるなんて。感性やセンスが自ずと磨かれていく環境の中に暮らしているロンドナーが心から羨ましいと思いました。

また、ロンドンの中心にはウェスト・エンド(ニューヨークで言うブロードウェイに相当)やオペラハウス、他にも大小様々な劇場やエンターテインメント施設がたくさんあります。

レ・ミゼラブルを鑑賞できるソンドハイムシアター(Sondheim Theatre)

金曜日の夜にはチームのみんなで「レ・ミゼラブル」のミュージカルを観に行き、週末は一人でロイヤル・バレエ団の「ドン・キホーテ」を鑑賞しました。素晴らしい芸術にいつでも身を委ねられて、心身豊かな気持ちでいっぱいにさせてくれるロンドンが大好きになってしまいました。次回訪問することがあれば、芸術鑑賞を中心に計画を立ててしまいそうです。

人のこと

現地でアンカースターチームが口を揃えて言っていたことは「人が温かい」ということです。ロンドナーはロンドナー以外に対して、当たりが強い印象を勝手に抱いていた(完全なる偏見)ので、失礼ながら、ちょっとびっくりしまいました。

紳士淑女で、礼儀正しく、同時に人間的で寛容な雰囲気とでも言うのでしょうか。日本の「おもてなし」とは少し違うニュアンスだと思いました。とにかく「え、やさしすぎでしょ!」と思う体験が何度もありました。

イースト・ロンドンに位置するブックショップ「Librería」の店内

ローカルエリアにある、小さな本屋さんを訪れた際の出来事です。お手洗いに行きたくて、二人しかいない店員さんの一人に、相談しました。すると「お店にはスタッフ用のお手洗いしかないから貸せないけど、ちょっとおいで」と、お店の外に出て、近くのオフィスビルに一緒に入って「お手洗いを貸してあげてください」と警備の方に頼んでくれたのです。こんなこと、他の国でも、日本でも経験したことがなくて、感激してしまいました。

バラ・マーケット(Brough Market)の入り口

バラ・マーケットという地元の人と観光客で大賑わいのフードマーケットでは、大人気の屋台のお兄さんが「あなたのはもう少しでできるからね」「あなたはチーズなしだよね、わかってるよ」と、出来上がりを待っているお客さん一人ひとりに、何度も声をかけてあげていました。自分のオーダーが、愛情を込めて丁寧に調理されていくのを、実況してくれている感じでとても楽しかったし、安心できました。

バラ・マーケットの出店。どこまでも続く出店に色とりどりの食材が並びます。

ホテルで「プールは朝何時からあいてますか?」と尋ねると「朝8時からだけど、もし、もう少し早くから泳ぎたいなら、僕が開けてあげてもいいよ」と言ってくれました。

たまたまなのかもしれませんが、現地で出会った人がみんな、あまりに温かくて、良い意味でカルチャーショックを受けました。

ウェルビーイングのこと

日本でも「ウェルビーイング」や「ウェルネス」という言葉が広く使われるようになってきました。より考えられた食事、丁寧な時間の過ごし方など、心身が満たされる生き方に対する関心が高まってきています。

ロンドンから車で120分ほど南西にドライブして訪れた、Somerset(サマセット)という郊外で過ごした2日間は、まさに心身を良質な時間と刺激で満たしてくれた、特別なものになりました。

The Newt in Somerset(開業2019年)は、会員制の庭園施設です。広大な敷地は銀座の5倍以上。総勢40名ものガーデナーによって毎日丁寧に手入れされているガーデンエリア、何千本ものりんごの木が美しく並ぶファームエリア、そのりんごを使って醸造しているアップルサイダーの製造所と、複数のレストラン、フレッシュチーズやオーガニックミートを購入することができるファームショップなどによって構成されています。

どこまでも続くThe Newtの敷地
どこを切り取っても細部まで綺麗に整備されている庭園
庭園のりんごからつくる様々な種類のアップルサイダー
採れたての野菜

園内があまりに広大なため、移動は「バギー」と呼ばれている、電動自動車で。ファームハウスからレストラン、ヨガスタジオやショップ、ガーデンへ、りんご畑の中を運転していきます。

ファームハウスからレストランまでの砂利道。りんご畑を突っ切ります。

宿泊は園内に2棟ある、ファームハウスにて。オールガラスで自然と一体化しているプールが最高でした。

宿泊したファームハウスエリア
コバルトブルーのタイルが素敵なプール。

空気が凛と澄んでいる夜には、天の川も見える満天の星空で、本当に五感全てから体のすみずみまで、大地のエネルギーを吸収している感覚になります。

滞在中の時間の過ごし方は、コンシェルジュと一緒に設計します。屋外ではガーデニングやハチミツ採集、スタジオではヨガやサウンドヒーリング、スパトリートメント、早朝の熱気球、森林浴、ティーセレモニーなど。基本的には2泊3日、できれば3泊4日の滞在が推奨されているのも納得です。

Blue Studio社設計の美しいスタジオでサウンドヒーリングを体験。

一見、ただ贅沢をしただけのように見えてしまうかもしれませんが、実はロンドン市内のホテル価格とそこまで差があるわけではありません。一日を丁寧に過ごすと、心身ポジティブになるということを体感できたことが、なによりも貴重な経験になりました。

ところで、The Newt in Somersetに滞在中、一度も「ウェルビーイング」や「ウェルネス」という言葉を意識することはありませんでした。どこにも書いてないし、誰も言いません。各々が自分なりに心身の充実を感じること、という意味なのかもしれません。考えさせられます。

仕事のこと

1日滞在してとても快適だった市内のコワーキングスペースTOG

滞在中、たくさんのロンドナーに会ってお話する機会がありました。そこで感じたことは、どことなく私たち日本人の価値観と共通するところがあるということ。例えば、議論を進める際にお互いの距離感を確認しながら、ちょうど良い感じを模索するところは日本と似ています。一方的にどちらかが主張を続けるのではなく、お互いの感情・期待・目標を理解し、協力しながら進んでいくミーティングが多かったように思います。

アンカースターチームは抱えているプロジェクトの性質上、アメリカに行くことが多く、ニューヨークでは新進気鋭のエージェンシーと協業を議論したり、サンフランシスコではグローバルプラットフォーマーと意見交換したりします。そこでは、相手を圧倒させようとする強い力を感じたり、プロジェクトを推進させるためのエネルギーがみなぎっていることもあります。それと比較すると、ロンドナーとの仕事の進め方は、もう少し慎重で、調和を重んじる感じです。

一言で言うならば「仕事しやすそう」なのですが、それは必ずしも良いことではないかもしれません。こちらの望むスピード、こちらの望むやり方をしっかりと聞いてくれすぎるがあまり刺激は少なめ。強制的な成長を強いられることもあるアメリカでの疲労感が恋しくなるかもしれません。

おわりに

初めてのロンドンで感じたことを、なるべく素直に、そのままシェアさせていただきました。今回は5日間しか滞在していないので、まだまだ氷山の一角をちょっとだけ味わった程度の経験でしかありません。一つ言えることは、確実にまたロンドンに行きたい、もっと知りたい、と思ったということです。もしまた行く機会に恵まれたら、さらに深くこの素晴らしい都市を探求したいと思います。

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