疑似体験:Work from Sydney

金巻
編集
児玉

日本から真南に8,000キロ。日本の20倍の広さに、日本の20%くらいの人口の約2,500万人が暮らすオーストラリア。そんなオーストラリアに「なにか」を感じているアンカースターは、その「なにか」は一体なんなのか、チームをあげて探求することに。そのためには、チームがもっとオーストラリアで時間を過ごす必要がある、ということで「Work from Australia」という制度を設計することになりました。先遣隊の私は今年2回目のシドニーへ。オーストラリアから日本と仕事するとどうなるのかを、「暮らすように過ごしてみたシドニー」の疑似体験という形でお届けしようと思います。

シドニーはとにかく近かった

フライトは夜7時に羽田を出発し、シドニーへ。飛行時間は10時間。いつの間にか寝ていて、起きたらシドニーに着いていました。

到着してまず感じたことは「あれ、移動が楽だ。身体が軽い。」ということ。シドニーと日本の時差は1時間。サマータイム(南半球なので、10月から4月)でも2時間です。

羽田で夕食を食べて出発し、機内ではしっかり寝て、目を覚ますとそこはシドニーの朝。同じ頃には日本も朝。まるで深夜バスに乗って、大阪に行くような感覚です。移動時間が一切無駄になっていない感覚、伝わりますでしょうか。

あるいは、日本の朝に出発するフライトでシドニーの夕方に到着するのもおすすめ。感覚はまるで国内線。朝食を羽田で食べて、機内では本を読んだり仕事をしたりしながら過ごして、夕食はシドニーで。

時差が少ないのはこんなに素晴らしいことなんですね。ニューヨークやロンドンへは、フライト時間が長い(最近はロシア情勢で、どちらも15時間以上)だけでなく、日本との時差がすごいので、到着してから最初の2日間はいつも身体が重いです。

さらに驚かされるのは、シドニー空港からCBD(都心、Central Business District)までのアクセスの良さ。概ね7分間隔で運行している地下鉄に乗って、わずか10分でCBDに到着。福岡空港から天神までの地下鉄と同じです。

今回は空港を出て10分後にはホテルに到着。ササッと身支度をして、すぐに活動を開始することができました。

空港から出ている2階建ての地下鉄。これにのって10分後にはCBDに到着してしまいます。

優秀すぎたシドニーの公共交通

シドニーの公共交通はかなり整備されており、どこに行くにも全く困ることはありません。Google Mapで行き先を検索して、提案通りに動くだけです。どの乗り物も、安全だし清潔なのも日本と変わりません。

なかでも、バスやトラム(市電)の路線が充実していて運行本数も多い。これらの地上の乗り物はとても気軽です。大きな駅の中を歩く必要はないし、階段もありません。乗り場も数百メートルごとにあるので、たとえば目的地に歩いて向かいつつ、トラムが来るのが見えたら最寄りの乗り場から乗る、みたいなことができます。

地上を走る路面電車のトラム。地下鉄と同様に中はとても綺麗。

日本よりも便利なのは、すべての乗り物が、クレジットカードのタッチ決済で乗降できるようになっていること。Suicaのようなカードを買う必要はありません。

例えば地下鉄では、改札をクレジットカードで通り、地下鉄に乗って、降りたら改札をクレジットカードで出るだけです。トラム(市電)では、乗り場にある端末にクレジットカードをピッとかざすか、車内でかざしてもOK。降りたら、また降り場にある端末にピッとします。バスもまったく同じ。フェリーも同じ。さらに、Apple PayやGoogle Payにも対応しているので、クレジットカードをスマホに登録しておけば、カード自体は必要ありません。

クレジットカードをかざしてトラムに乗る

さらに驚いたのは、政府が管理するウェブサイトで乗車記録を簡単にチェックできること。ID登録も必要ありません。クレジットカード情報を入力するだけで、過去の乗車記録を簡単に参照できるという優れものです。

シドニーに着いたその瞬間から誰でも簡単に移動できる、シンプルで便利な公共交通システムに感動してしまいました。

日本との仕事はむしろ快適だった

今回、シドニーに滞在しているのは私だけなので、通常通り仕事を進めるには、日本にいるチームメンバーとやり取りをする必要があります。それが、全く問題ないどころか、むしろシドニーにいたほうが快適かも、と感じることがありました。それは、時差のおかげです。

シドニーの朝。基本的に天気はいつも晴れていて、11月は夏に入る直前のとても気持ち良い時期。

シドニーの午前9時は、日本ではまだ午前7時。朝が苦手な私でも、日本のみんなが起きてくる頃にはすでに仕事を開始しています。逆に、日本の夕方は、シドニーでは夜。切りの良いところでおしまいにすれば、健康的な時間に終業。ついに私も、夢の朝型ビジネスパーソンになることができました。時差がプラスに働くことがあることを身をもって体感しました。

そもそも、シドニーは全体的に朝型。人々は、朝早くから仕事をはじめる代わりに、夜に仕事を持ち込まない。多くのビジネスパーソンが夜遅くまで熱心に働くことによって回っている日本のシステムとは、異なる仕組みが動いています。

例えば、お店の営業時間。落ち着いて仕事ができそうなカフェを見つけても、午後4時には「閉店のお時間です」と追い出されるので、全然落ち着きません。突然外に放り出された私は、公園のベンチでオンラインミーティングをする羽目に。日本はまだ午後2時なので、ビジネスアワーの真っ只中です。夜遅くまで営業しているカフェ探しは、次にシドニーを訪れた際の重要なミッションとして残しておきます。

いわゆるチェーン店以外のおしゃれカフェの営業時間はこんな感じ

あらゆる食志向が認められ、フュージョンする

先遣隊として、暮らすように過ごすべく、キッチン付きのアパートメント型ホテルに滞在することにしました。毎日近くのスーパーマーケットに行っては、すべての棚をくまなく物色しました。そして少しずつ分かってきたのは、多様な食志向に対して、豊富な選択肢がちゃんと用意されているということ。グルテンフリー、シュガーフリー、デイリー(乳製品)フリー、ヴィーガンなど、すべてを受け入れようとしていることが、棚から伝わってきます。

ホットケーキミックス、クッキーミックス、ブラウニーミックス、全てグルテンフリー

さらに、日本と感覚が大きく異なるセクション、それは果物です。シドニーのスーパーマーケットに通う様になるまでは気が付かなかったのですが、日本では果物は嗜好品。シドニーでは野菜と同じで、必需品。値段も量も、玉ねぎやじゃがいもと同じ感じで並んでいます。実際に食べてみると、日本の果物とは考え方が異なることが味からも伝わってきます。糖度が控えめで、もりもり食べられます。とても新鮮だし、水々しくて美味しい。

新鮮なイチゴが 285円 (2023年11月時点のAUD レート)

ところで、オーストラリアで手に入る食材の大部分は、国内で生産されていることにも気が付きました。その豊かな自然に育てられた、ローカルで新鮮な食材をお手軽な価格で楽しめるのは、いわゆる道の駅みたいな感じです。しかも、多様な好みに合わせて、多様な食材が用意されている。素晴らしいと思いました。

そして、多様な食材から作り出される料理も、もちろん多様です。オーストラリアの食文化の最大の魅力は、アジア、ヨーロッパ、アフリカなど、世界中の食文化が交差する「フュージョン」であること。フレンチコリアンや、スパニッシュジャパニーズなど、それぞれの良いところを大胆に融合させて、誰も経験したことがない新しい味を模索しつづけるのがオーストラリアキュイジーヌとも言えます。

フュージョン料理のお店で食べたロブスターパスタ。日本ではなかなか味わえない複雑な味が多く「なんかよくわかんないけど本当に美味しい」という感想が一番多い。
日本と同じ軟水のエリアが多く、お米も比較的美味しく炊けている。海が近いため魚介類も新鮮。

もちろん、ジャパニーズも大人気。ホテルの近くに人気店があったので試してみたら、やっぱり美味しい。純和食ではないけど、オーストラリアンジャパニーズとして、独自の進化を遂げている感じがします。東京のフーディに負けないくらい、シドニーの人の舌も肥えているのでしょう。近くのアジアンマーケットにも行きましたが、アジアの食材が所狭しと並び、これは工夫次第で様々なアジアンフュージョンが生み出されるのも納得しました。

アジアンマーケットで日本や韓国のアイスが比較的簡単に手に入る

単に美味しいだけではなく、素材の味に素直で、多様な好みに対応し、お互いがお互いを高め合う、そんな豊かな食文化には心から魅了させられました。さらに、近年では隣の都市メルボルンが「食の都」として世界から注目されているとのこと。これ以上美味しかったら私はどうなってしまうのでしょうか。。

スーパーデジタル国家が羨ましい

オーストラリアにおけるデジタル化の進展は、目を見張るものがあります。2025年までに全ての公共サービスをデジタル化するという「デジタル政府戦略」をまとめ、「世界でトップのデジタル政府を目指す」(*) としています。これは、国が主導してデジタルトランスフォーメーションを強力に推し進めるもので、その進展はすでに日々の生活にも大きな変化をもたらしています。

現地の人に見せてもらって驚いた政府のアプリ。個人情報や、住民向けの手当など、生活に関わる様々な情報が集約されている。

例えば、オーストラリアではすでにデジタルライセンスアプリという、身分証明書アプリが普及し始めていて、運転免許証などの身分証明書はすべてアプリ上で管理され、ホログラムのような特殊な技術によって複製不可能となっています。もちろんこれがあれば、カード型の運転免許証を持ち歩く必要はありません。

更に、日本で言うところの住民票の転出・転入手続きも、アプリ上で簡単に行えるようになっています。市役所に住民票を書き換えに行くという必要はありません。まるでショッピングサイトの登録情報を変更するかのように、アプリ上で簡単に自分の住民情報を更新できるなんて。日本も早くこうなってほしいです。

スーパーのレジも、計り搭載で、セルフレジがデフォルト。人がいるレジのほうが圧倒的に少なかった。

さらに、キャッシュレス決済の普及が凄まじい。オーストラリアでは、キャッシュレス決済比率が世界で4位にランクイン(**)し、タッチ決済(非接触決済)の普及率は世界一を誇っています​​。前述の公共交通機関はもちろん、カフェでのコーヒー代の支払いから、スーパーでの買い物、日常生活のあらゆる場面でキャッシュレス決済が主流となっており、その普及は国民の生活を大きく変えています。10年以内の完全キャッシュレス化も、夢ではないとされているらしく、オーストラリアは確実にデジタル大国への道を歩んでいることがわかります。私も滞在中、1ドルも現金を使わなかったのはもちろん、現金が使われているシーンを目撃することもありませんでした。

(*)参照:Australian Goverment ”Digital government in 2025
(**)参照:ROY MORGAN ”Majority of Australians now use digital payments

「余裕」に包まれて

私は普段、お洒落なカフェでまったりくつろぐ、みたいなのが苦手です。でも、なぜかシドニーに来ると自然とカフェに出向き、ただその場所と時間を楽しむ、ということができている自分にびっくりします。ニューヨークでもあまりそんなことはありませんでした。滞在中、何度かカフェでまどろみながら、このことについて考えていました。そして、少しずつその理由がわかってきました。それは「余裕」でした。

オーストラリアの国土面積は、日本の約20倍にも及びます​​。そこに、日本の人口のわずか20%の人しか暮らしていません。とてつもなく広大な土地に、ちょっとだけ人が住んでいる、みたいな感じです。逆に、日本はオーストラリアの、たった5%の国土に、1億人以上が暮らしています。それも、そのほとんどが東京のような都市部に集まっています。

引用元「オーストラリアの人口と面積の解説と各州の人口ランキング」https://tabiken-ryugaku.co.jp/au/convenient/population/

どんなにシドニーがオーストラリア最大の都市だとしても、滲み出てしまう「余裕」は隠せません。世界中から観光客が多く集まり、世界遺産をバックにオーストラリアワインが楽しめる、かの有名なオペラハウスカフェでさえ、その群衆をまるごと受け入れる「余裕」があり、さほど苦労せずに素晴らしい席に着くことができます。電車もトラムもバスも余裕があるし、スーパーマーケットに並ぶ果物たちにも、余裕が感じられます。

今回、暮らすように過ごしてみて、大好きになってしまった感覚、それは、どこへ行っても決して息苦しくなく、心地よい自然な余白が、そこに必ずあることでした。

暮らすように過ごしてみたシドニー

今年の3月にシドニーに訪れた際は、チームみんなでやること満載で、毎日興奮していたからか、あっという間に時間が過ぎてしまったのを覚えています。ホテルも素敵でしたが、部屋には寝るためだけに帰る感じでした。今回はその真逆で、自分のペースで仕事をし、スーパーにも通って自炊もし、まるで現地で暮らしているかのように生活をしてみました。そこには、前回とは全く違うシドニーがありました。すべてを共有するには紙面が足りませんが、少しでも暮らすように過ごしたシドニーを疑似体験いただけていたらうれしいです。

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