疑似体験:Global Communicator

聞き手・編集・テキスト
金巻未来
話し手
ネルソン・リン

※英語によるインタビューを翻訳しています

Anchorstarは法人向けのコミュニケーション教育プログラム「Anchorstar English」を運営しています。(参照:「疑似体験:Anchorstar English」
Anchorstar Englishは「Global Communicator(グローバルコミュニケーター)」を育てるプログラムです。私たちは、Global Communicatorを、「多文化で、多言語を話すパートナーや
同僚と共に意思疎通をし、共通のゴールを達成しようとする人材の総称」と定義しています。では、Global Communicatorは実際にどのような人なのでしょうか?
Anchorstar Englishで、Head Coachを務めるネルソンにお話を聞いてみました。

Global Communicator(グローバル・コミュニケーター)

今日はGlobal Communicator についてお話をきかせてください。

はい。ちょうど昨日、九州の柳川に行ってGlobal Communicatorだと思える人に出会いました。まずはそのことについてお話させてください。柳川は福岡から1時間半のところにあって、美しい運河や、たくさんの小さな川に囲まれているエリアです。それらを船で観光する柳川下りがとても有名です。

大勢がボートに乗り、運河に沿ってあちこち巡りました。そこで、山田さんという船頭(操業の全てを取り仕切る船の総責任者)に出会いました。彼はまさにGlobal Communicatorだ!と思い、しばらく観察してみました。

山田さんはどういう人でしたか?

船の乗客のほとんどが外国人だったにもかかわらず、彼はそんなに英語を話せませんでした。いくつかの単語や、定型文だけ知っていている程度で、おそらく英語の文章を作ることはできないでしょう。でもなぜか彼の「コミュニケーションしたい」「通じ合いたい」というパッションがものすごく感じられるのです。
彼の声はとても大きく、ときにリズムにのって歌っているようにも聞こえましたし。エンターテイナーのような側面も感じられました。でも、それだけではありません。山田さんは、ボートに乗る前に私たちに「Where are you from? (どこから来たの?)」訪ねてきました。そして、客がどこの国籍の人かをよく把握してからボートに乗り、自分の観客がどういう人なのかを十分に観察していました。実際、船の中には、中国、香港、韓国、アメリカ、それからタイから来た人たちがいました。
山田さんは、英語の文章を作ることができないので、例えば「ボートに乗るために靴を脱いで次の人に靴を回してください」ということを英語で説明することができませんでした。でも彼は即座に、「ハンドパス」「バトンスタイル」という言葉を繰り返し、自分の靴を使って、ジェスチャーで説明をし、なんとか通じ合っていました。
言語能力は高くなくても、彼のパッションが感じられて、コミュニケーションしたい気持ちが伝わってくるのです。そのエネルギーは、世界共通で人々が感じ合えるものでした。

「伝えたい」というパッションがとても重要なんですね。

あとは、相手に興味を持つことも重要です。彼は多くの言葉を知っていました。4、5カ国語で、池の中にいる「亀(かめ)」の言い方を知っていました。他にも、「スピードを落とす」とか、「気をつけて」ということを、色々な言語(中国語や、その他の言語)で言うことができました。他の文化に興味を持ち、それを学んで、使ってみせたりして、興味があるという姿勢が相手に伝わることはとても大切なことだと思います。
彼は英語がそんなに話せませんでしたが、最後まで笑いが絶えず、素敵なGlobal Communicatorに出会えたように感じました。

(左)ネルソン (右)山田さん

Synchronization(どのくらい通じ合っているか)

素敵なストーリーですね。ここからはGlobal Communicator になるために必要な要素について、もう少し具体的に聞かせてください。

Global Communicatorを語る上で欠かせないのは、「Synchronization(通じ合うこと)」という指標です。相手と自分が、どのくらい通じ合っているかどうか、を表す言葉です。私たちはレッスン中にも、どのくらい「Synchronization(通じ合うこと)」ができているかを確認し合っていますし、それがどういうことなのかについてもよく話します。

Synchronizationについて具体的に教えてください。

「Synchronize」とは、相手に寄り添い、相手に合わせることを意味します。

簡単に言うと、相手と「Synchronize(通じ合う)」ことができる人は、自分の言葉や知識を順応させ、相手に合わせることができる人だということです。いま自分がどのように話しているのかを認識し、かつ、相手が自分の言っていることをどう理解しているかを読み取ることに優れています。つまり、相互理解に非常に優れている人です。

より「Synchronize(通じ合う)」ためには、何をすれば良いのですか?

より「Synchronize(通じ合う)」ためには、さまざまな戦略が必要です。Anchorstar Englishでは、それらの戦略をCommunication Toolboxとしてまとめていて、受講生の皆様がコミュニケーションをする際に使えるような戦略(Tool)を使う特訓をしています。
例えば、なにかを説明するとき、気づかぬ間に専門用語をつかって説明してしまい、相手が理解しているかどうかまで気が配れていない人が意外とたくさんいます。そういう場合は、相手の理解度を確認するために「私の話についていけますか?」「理解できていますか?」という定型文を覚えて、会話の中で頻繁に確認する癖をつけています。
これはあくまで一例です。とてもシンプルなように聞こえますが、このようなちょっとした戦略(Tool)が相手と通じ合うことを助けてくれます。
ほかにも「私は英語初級者です。ゆっくり話してもらえますか?」と最初に期待値を設定する練習や、「それはこういう意味ですか?」と言い換えて確認する練習をしたり、たくさんのToolを用意しています。

興味深いですね。

タンゴのようなダンスに似ています。うまくパフォーマンス踊るためには二人の人間が必要です。二人が踊っているとき、全く同じように踊っているわけではありませんが、一人が傾いたらもう一人がそれに従ったりして、お互いの身体の声を聞きながら、一つのパフォーマンスを作り上げています。そのくらい、コミュニケーションには相互の協力が必要なのです。

ちなみに、「Synchronization はダンスのようである」といったような「Metaphor(メタファー、例やたとえ)」もCommunication Toolboxに記載されている大切なToolの一つです。何か難しいことを伝えたいときに、全世界で通じるMetaphorを使って説明するとよく伝わることがあります。
他にも、効果的なボディランゲージを使ったり、伝える前に自分の考えを明確に構造化する練習をしたり、ボイストレーニングで声の出し方や声の大きさも調整したり、言語以外にたくさんのToolを使う練習をしています。

 

Simple English(シンプル・イングリッシュ)

他にも、Global Communicationとして大切なことはありますか?

「Simple English」という考え方です。ネイティブみたいに話そうとして、高度な英単語を使うことを目標にしないことです。時にはメタファーを使ったりしながら、伝えたいことをいかにシンプルな英語で伝えられるかが重要です。
おもしろい事例として、ニュージーランド政府が2022年に「Plain Language Bill(平易な言語法案)」を提案しました。国民に対するすべての広報は”明確で簡潔で、よく整理され、誰にでもわかる ものでなければならない。”という方針をアナウンスしたのです。(続きを読む:https://www.theguardian.com/world/2022/sep/22/new-zealand-hopes-to-banish-jargon-with-plain-language-law

世の中には、母国語が英語である国は意外と少ないです。多くのヨーロッパ圏でも英語は第二言語として話されています。世界中の人と「Synchronize(通じ合う)」ためには、誰もが理解しやすいシンプルな英語で、明確に話すことは必然なんです。

(参照:List of countries and territories where English is an official language, Wikipedia)

冒頭に紹介した船頭の山田さんは、語彙が少ないのになぜコミュニケーションをとれたのでしょうか?それは、彼が最もシンプルな言葉を選び、メッセージを伝えるために、ボディランゲージやパッションを見せるなどをして、非常に多くのTools(戦略)で言語を補足していたからです。

Enjoy Multiculturalism(多文化への興味)

他にもGlobal Communicatorとして大切なことを教えてください。

あとは「違う文化に心の底から興味を持つ」ということが大切です。相手が自分に興味を持ってくれているかどうかは、コミュニケーションを通じて無意識に伝わります。相手への興味を強めるためにも、冒頭で登場した山田さんのように、相手にたくさん質問することが大切です。
文化の異なる人達は、自分と全く違う価値観を持っていることを前提に、「どこから来たの?」「なぜそれが好きなの?」「なぜそれがわかるの?」など、シンプルな質問をたくさん投げかけることが大切です。決して、自分の価値観の中で相手がどう思っているかを決めつけてはいけません。
また、相手への興味をもつことは重要ですが、自分自身についても共有することが大切です。山田さんは本当に川下りに対して情熱を持っていて、「自分の知っていることをなんとか共有したい」というパッションが溢れ出ていました。それによって相互のコミュニケーションが促進されるんです。

能動的に興味を持つというのは、意外と難しいことなのですね。

そうですね。日本のカルチャーを勉強している中で、とても興味深いことだと感じます。日本人は留学などで海外に行くことがありますが、たいてい1年くらいだと思います。1年だけだと、グローバルな環境の中でとても深い交流を持ったりすることは意外と難しいと思います。日本のように、単一の価値観に慣れている人が、どうやったら他の国に対して深い興味を持つことができるか、私も研究中です。これは私にとっても、日本文化のとても興味深いところです。

少しでも多文化に興味を持つために、実践できることはありますか?

やはり、新しい経験をすることだと思います。海外にすぐに行くのが難しければ、国内でもいいのです。ゴールデン街でもなんでもいいので、外国人や多文化な人がいるところにいって、話しかけてみればいいのです。
そんな時間が無いなら、デジタルツールも有効です。英語教育チャンネルに限らず、世界中を旅しているチャンネルや、文化や旅行に関するもの、食べ物に関するものでも構いません。そこから始めるだけでも、他の国の文化に興味を持ち始めるという意味ではとてもいいと思います。
こちらに多文化理解に役立つ私のお勧めYoutubeを載せておきます。

Kazu Languages
XiaomanNYC
Takashii from Japan
Best Ever Food Review Show
Saki-chan in NYC
Bald and Bankrupt
Asian Boss

Let’s Go! (たのしもう!)

Anchorstar Englishチームが目指していることを教えてください。

言語が障壁ではなく、人々とつながりあうための手段となって、みんなが「通じ合える」ような世界をつくることです。そして、それによって世界が一つになり、人々がもっと外の世界に興味をもったり、想像したりしてくれるようになればいいな、とチームでいつも話し合っています。そのために「Global Communicator」の育成を目指し、これからも研究を続けていきたいです。

教材として利用しているカードを開発しているミーティングにて

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