創刊「アンカースター見聞録」特別付録:疑似体験

テキスト
金巻未来
写真
玉村敬太
編集
川辺洋平

Translated by DeepL

2021年10月、アンカースターのウェブサイトは、さまざまなコンテンツを発信するオウンドメディアに生まれ変わります。背景には、代表の児玉太郎や、アンカースター社の面々が見聞きしてきたものを、より多くの人に「疑似体験」してほしいという考えがあります。その考えに至った経緯を、新オウンドメディアの編集長に就任した川辺洋平が、旧知の仲である児玉に聞きました。アンカースターの成り立ちを振り返りながら、新メディアの立ち上げに対する思いを語ります。

ーーアンカースターの設立に至った、6年前を振り返ってお話を聞かせてください。

アンカースターを設立する前は、2010年頃からFacebook Japanの立ち上げをしていました。4年働いて、やりきったなって。でも、少し充電したらすぐにまた元気が出てきて、Facebookみたいな新しい海外企業に、もっともっと日本に来てほしいな、自分になにができるかな、って考えるようになりました。

Facebook Japanをゼロから立ち上げたときは、頑張っても6人くらいしか入れないようなマンションからのスタートでした。2010年当時はまだ、WeWorkみたいなコワーキングスペースもなくて、もちろんGAFAという言葉もないし、Facebookをだれも知らないので、オフィスを借りるのは簡単ではなかったんです。審査に通らないんですよね。

そんな経験から、海外企業が日本進出に興味を持ったときに、もっと気軽に使えるスペースがあったらいいなと思って、仲間たちと一緒に、港区西新橋にアンカースターを設立しました。かっこいいラウンジスペースもつくりました。

児玉太郎(こだま たろう)。1999年ヤフー株式会社に入社。米国Yahoo Inc.との協業契約を基に、様々なYahoo!サービスの日本展開を行うチームに所属。2010年、Facebook Japan株式会社の一号社員として、カントリーグロースマネージャーに就任。日本成長戦略責任者として、電通、リクルート、KDDI、ソフトバンクなどの日本企業と戦略的協業契約を締結する。2015年、日本企業とのパートナーシップを主戦略とした海外企業の日本進出支援を目的とし、アンカースター株式会社を設立。新しいサービスと日本企業との、国や言語を超えたビジネスパートナーシップのプロデュースを通じ、日本の発展に寄与する”きっかけ”の創出に注力する。パーソナルミッションは日本の進化に携わり続けること。

ーー新橋ってメディア企業も多いし、BtoBにはすごく向いてそうですね。

あとから知ったことですが、昔、新橋には家具屋や材木屋が多かったらしいんです。アンカースターがあるこのビルも、もとは材木店だったらしくて。大量の材木が、所狭しと並んでいた写真を大家さんに見せてもらいました。

ーー意外だね。「新橋のサラリーマンに聞きました」っていうテレビの影響か、新橋はザ・日本のビジネス街、のイメージでした。

明治時代、横浜には、世界中の家具が届いたらしい。まさにその頃、日本で最初に電車ができました。今の桜木町と新橋の間ですね。世界中から集まってきた、チェアとかテーブルとかドレッサーを、横浜からその電車に乗せて、新橋まで運んでいたんです。

その際、海外から届く家具は長旅でよく壊れていたそうで、新橋にはそれを修理する家具屋さんや、材木屋さんがいっぱいあったらしいんです。つまり、アンカースターがある西新橋は、海外の最新のものを、最初に受け入れる、アライバルシティだったんです。「Facebookと一緒じゃん! 海外企業の日本上陸にピッタリじゃん!」と思いました。

ーー面白い。港区っていう響きもすでに船着き場感がありますよね。

港の船をイメージしてデザインされたアンカースターラウンジのレセプションスペース

そうなんです。新橋は、海と、世界と、ゆかりのある地なんです。ストーリー性がありますよね。世界から日本に、多種多様な人達とともに、様々な文化やサービスが入ってくる、そんな場所がつくれたらいいなと思いました。

ーー社名に入っているアンカーは船の錨(いかり)っていう意味でしたっけ?

アンカーは、楔(くさび)とか錨(いかり)のことを指します。あと、日本だとあまり見ないけど、海外にはまだたくさん残っているレンガ造りの建物には、レンガが崩れないように、壁の外側と内側を挟み込んでいる鉄製のパーツがあるんですけど、これもアンカーと呼ばれています。なかには、星の型をしているものがあって、それを、スターアンカーと言うんです。

ーーあ、そっちの意味もあるんですね! ぐらぐらする建物を支える役割のほう。

そう。スターアンカーは、ちょうど手のひらくらいの大きさで、建物をがしっと支えている。それが海外企業をサポートするイメージにぴったりで、社名にしようと思って。

でも、スターアンカーはドメインがとられてて、それじゃ、ってことで、ひっくりかえしてアンカースターっていう社名になりました。

ーーははは。銀座をザギンにする、みたいな。

川辺洋平(かわべ ようへい)。広告会社、出版社を経て2014年独立。インスタグラム日本版オフィシャルアカウントの編集や、国際オリンピック組織委員会のSNS担当、世界経済フォーラムが選出する30歳以下の次世代リーダー「Global Shapers」東京ハブ代表などを歴任。現在は株式会社おうちピテクス代表取締役として企業の情報発信をサポートするスペシャリスト。哲学対話の普及を目的とするNPO法人こども哲学・おとな哲学アーダコーダの創設者としても知られ、単著「自信をもてる子が育つ-こども哲学-“考える力-を自然に引き出す」他、執筆協力、映像作品での受賞などビジネス業界のみならず教育・学習分野でも広く活躍する編集長。

古いな。石橋さんが自分の名前を英語でひっくりかえして、ブリジストンにしたみたいな。だから、錨の意味もあるし、支える、という意味もあります。それに、ここに来た世界の色々な企業が、成功してスターになったらいいなって想いもあって、アンカースターにしました。

アンカースターを設立してから、海外企業が人を雇うのも手伝おうと思って、人材の仲介ビジネスができる、有料人材紹介業という免許もとったりしました。でも、やっていくうちに、だんだんアンカースターに求められるものが変わってきたんです。

ーー西新橋の家具屋の話と一緒で、最初は外国から入ってくる家具を修理したり、ちょっと手伝ったりしてくれる人を探したりしてるうちに、家具屋にも知見がたまってきて、業態が変化していくみたいな。

まさにそんな感じで、最初は、海外企業が日本に入るための、人や場所、法務、会計、とかそういうツールを揃えたほうがいいのかなと思っていました。でも、色々相談にのっているうちに、そういうことは他にもやってる専門の会社があるし、アンカースターはもっと他の方法でお手伝いできるんじゃないかと、考えるようになりました。

そんな折に、海外企業から助けを求められるようになったのが、日本でいかに信頼を勝ち取るかという、いわゆる事業課題を解決するためのお手伝いだったんです。海外企業が日本に進出しても、最初はとにかく信頼してもらえなくて。信用してもらうためには、日本ならではの工夫が必要ですよね。

例えば、”大手の日本企業と協業している”とか、”誰でも知っている日本企業がすでに顧客になっている”とか、”業界では知らない人がいない人がそこで働いている”とか、日本では「すでに信頼されているものと絡んでいること」が重要です。そういった日本のビジネスにおいて当たり前とされていることでも、効率的な海外の人からしてみると、理解に苦しむコンセプトみたいで。機能や価格での競争の前に、信頼を得ることが一番大事だということを理解してもらうのに、相当な時間と労力がかかります。

ーー日本企業が国内で営業するときでさえ、大手企業での導入事例や実績があることが、営業ツールとして最も効果的だし、重要ですよね。

そう。先行事例を作らないと。だからアンカースターでも、協業が見込める日本企業を海外企業に紹介しはじめたんです。もちろん、日本企業の事業の発展もたくさん想像しながら。

そうしたら、どうなると思いますか? 日本企業の担当者は「すごくいいですね~!」って言ってくれるのに、だいたい何も起きないんです。海外企業からしたら、え?ってなります。いいですね、って言いましたよねって。その後、なんで行動に移らないんですかって。

ーーその場でノーとは言わない日本企業の文化なのかな。

日本の会社側にだって「すごくいいじゃないですか」と言いつつも「昔からお付き合いのある会社があるんで」とか、色々事情はあるでしょう。

でも、そうこうしているうちに、アンカースターが紹介している海外企業が、どんどん大きくなっていく。気がついたら、日本企業との立ち位置が逆転してしまっていたりして。組めたものも、組めなくなっちゃう。

「すごくいいタイミングで紹介したのに」と悔しく思う一方で「なぜ、海外企業と新しいチャレンジに取り組むことができなかったんだろうか」ということが、気になりだします。もしかして、日本側にもなにか、アンカースターができることがあるんじゃないかと。

ーーなるほど。日本側に興味を持ちはじめたんですね。

明治維新が舞台の歴史ドラマや映画が好きなんですが、いろいろ大変だったんだろうなぁ、と思います。「日本は進化しないといけない」と確信していた渋沢栄一のような人もいたかもしれませんが、多くの人にとっては、急激な時代の変化に、すごくアレルギーがあったのではないかなと想像できます。ちょんまげを落とすのも嫌だろうし、刀を置くのも嫌だろうし、攘夷といって「海外から来た人は全員追い出すんだ!」となってしまう気持ちもなんとなくわかりますよね。

ーー変化を好む人と、苦手とする人はいますよね。

日本列島は海に囲まれているので、外敵から自然の防御壁で守られていて、なかなか攻められることがなかったのと同時に、日本の人が、海を越えて外に出るのも大変です。多くの人にとって、外の世界がどうなっているか、わかるわけがないですよね。

ヨーロッパみたいに陸続きで、歩いて進めば、いろいろな国に行けてしまう大陸で暮らす人々にとって、隣国同士がお互いに影響しあいながら共存するのは当たり前というか、地理上、受け入れるしかないのかもしれません。かたや海に囲まれた日本では、港さえ閉じればあらゆる国交を断絶できてしまう。「誰も来ないでください」って簡単に言えるじゃないですか。実際、200年以上鎖国を続けた江戸時代は、とても平穏で安定していた時期だったようですね。

話を戻しますが、今は飛行機もあるし、インターネットもある。鎖国は現実的ではありません。望んでいようがいまいが、海外からいろいろ来てしまいます。そうやって、時代の潮流とともに、海外からやってくる様々な刺激をしっかりと受け止めて、ちゃんと理解して「これはいったいなんなんだ、世の中はどうなっていくんだ」をじっくり考えることができるようになることこそ、アンカースターが海外企業の日本進出を手伝うのと同じか、それ以上に大事なんじゃないかと思うようになったんです。

ーー先程おっしゃっていた、日本の企業に海外サービスを紹介するときに「面白いですね~」で止まる原因は、現場なのか、決定権があるリーダーなのか、どこにポイントある印象ですか?

うーん。副反応は様々なので。一概には言えません。さっきの明治時代の話じゃないけど、現場の中にも「面白い、ぜひやろう」と言ってくれる人もいます。ただ、そういう人だって「うまく企画が通せない」「上司がイエスと言わない」となることもある。

他にも、社長は前向きなのに、役員は通せないとか。あとは、社長はやってと言っているのに、現場が拒否してしまうとかもあります。

ーー社長はやれと言っているのに、現場が拒否することもあるんですか。

色々な会社があると思います。これはすごく立体的で、複合的で、会社によって違うし、会社の歴史や、商売によっても違う気がします。

企業には、急激な変化や進化に対する防衛機能が複雑に存在しています。顧客や、パートナー、株主などのステークホルダーがたくさんいて、それはそれで、社内とは別種のアレルギーがあったりすることもあるでしょうし。

また、日本の企業にはスタンスを明確にしない傾向があると思います。ここでいう、スタンスというのは、主義とか主張みたいなものですね。うちは右ですとか、左ですとか言うと、そのスタンスに賛同できない人達に嫌われてしまうかもしれない。アメリカでは、大企業の社長さんが堂々と「弊社は民主党を応援しています」とスタンスを表明したりします。日本では、誰にも嫌われないようにすることが大事なので、スタンスを明確に宣言している海外企業と組むことが苦手なケースもあるかもしれません。

ーー確かに日本企業がスタンスを示すと炎上してしまうリスクはありそうですよね。

アメリカでは、全人口のうちの半分に嫌われるかもしれないけど、残り半分にちゃんと支持されるほうが良い、という考えが主流な気がします。日本と違う文化ですよね。

誤解してほしくないのですが、日本がもっと欧米っぽくなったほうが良いとまったく思っていませんし、文化の違いが悪いとは一切言っていません。ただ世界がどんなに進んでいっても「日本は安全だし大丈夫だ」とか「日本は特殊な国だから」と、無意識のうちに心理的な鎖国を続けてしまって、世界との接続を断ってしまい、気がついたらとりかえしがつかないところまで、端っこの方に自ら動いてしまって、世界からも軽視されるようになってしまった、みたいなことになってしまうのは嫌だなと強く思っています。

そこで、日本企業がより健全かつ建設的に世界と交流したり、接続したりするために、アンカースターはどんなことができるのかを考え始めたのが、ここ数年です。

ーーなるほど。逆に、アンカースターが紹介した海外サービスを使ってみようとか、組んでみようってなった話はありますか?

色々な日本の会社の経営者とお話しする機会をいただいていますが、すごいのは、大体の社長は真剣に、本音で「ドアはあけてある」って言ってくださるんです。新しいアイディアに対してはいつでも門戸を開いてますよと。

海外企業との協業の提案も然り、アンカースターが日本企業と一緒になにかしようとするときは、中長期的な取り組みがどうしても多くなります。「明日から売上が上がります」という話よりは「これは未来を切り開くきっかけになるかもしれないです」という話をたくさん話します。でもどんなに現場でそれが面白いと思ってもらっても「明日の仕事もちゃんとできてないのに、10年後の話をどうやって上にもっていけるのか」となってしまいます。

ただ、それをしっかり支えてくれる役員がいたりして、ポジティブな未来話を何度も何度もしつこく言ってると、だんだんとその雰囲気が醸成されていくこともあるんです。

ーー少しずつ少しずつ、雰囲気が変わっていくのが日本企業なのかな。

海外企業では、社内の雰囲気が醸成されていようがいまいが、トップとトップが握手すると一気にことが進むことがほとんどです。でも、日本では社長、役員、現場、全員が何度も同じ話しをくりかえしながら、だんだん雰囲気を作っていくことで、自然な合意が形成されていく。

たまに、アメリカの会社の偉い人が、アンカースターに突然やってきては「日本企業の社長に会わせてほしい」と言ってきます。「社長にさえ会えれば、俺が説得するからさ。社長落とせばうごくでしょ?」って本気で言うんです。まったく悪気はないし「気持ちはすごくわかるけど、到底無理だし、お願いだから諦めて」って説明するのが本当に難しいです。

ーー合意形成のプロセスが違いすぎる。

現場の人が「太郎さんの話は相当難しいと思っていたから、実はあんまり真剣に考えていなかったけど、太郎さんが昨日、社長に話してくれたんで、突然やりやすくなりました!なんとかできます、なんとかします!」みたいなことを言ってくれたりします。そんなとき、とても嬉しそうにしてくれます。なるほど、こうやれば気持ちよく進むんだな、って思います。

そんなわけで、いつもアンカースターは日本企業の「現場、役員、社長、現場、役員、社長」って延々と繰り返される会話、対話、議論、を何度も何度もするんです。そうしているうちに、色々な話もするようになって。最初は海外の企業を紹介する話だったけど、気がついたらもっともっと大きな、大事な話に発展していたりします。

そうやって、様々な立場の方と、たくさんお話をする機会をいただくなかで、たとえば、海外のカルチャーだったり思想だったり、やり方みたいなものも、紹介したいと思うようになりました。海の向こうの、見たことのない、聞いたことのない話って、面白いですよね。海外企業の評価制度とか、採用の仕組みとか、人材教育のやりかたとか。

ーーさっきの家具屋の例えでいうと、海外の家具の仕組みから紹介するということですね。

はい。日本企業と海外企業をつなげようとしていたら、むしろ知見の共有が盛り上がっちゃって、想定もしていなかった、新しいプロジェクトが立ち上がるようなことも起こるようになりました。例えば、人材育成を一緒にやろうとか、海外市場に向けたブランドリニューアルに取り組もうとか。

ーー面白いですね。海外企業をサポートしているうちにアンカースターにも、いろいろな知見が蓄積されていって、それが今度は日本企業の変化や進化のきっかけになるという。

はい、本当に。ということで、最近は海外企業の日本進出の話が一切なくても、日本企業の進化のきっかけづくりのお手伝いができるようになってきました。日本企業の社長や現場が興味をもつのは、海外企業と組みたいというよりは「どうやってその会社が、このプラットフォームをつくれたのか」とか「なぜこの会社はこんなに大きくなれたのか」というところなんです。

もちろん海外から面白い案件がきたらご紹介していますが、それはあくまで、必要に応じてでいいかなというか、日本の社会にとって、本当に意味のある日本進出案件だけに絞って、取り組むことにしています。

ーーそれって輸入家具の歴史に通じるものがありそう。

家具でも同じだと思います。最初は海外のものを買ってみて、使ってみて。そのうち、自分で作りたくなってきて、作ってみたり。さらに、その先には「そもそもなんで、床に座るんじゃなくて、椅子に座るっていう発想に至れるのだろう」とか「なんでそれを生めたんだろう」って、新しいものが生まれる背景や仕組みそのものに興味を持ちはじめる。

海外企業の社内制度について、雑談しているうちに「やってみたい、評価制度を真似てみたい」とか「海外では社員同士がそんなに話し合う仕組みがあるんだ! うちももっと対話のある会社にしたい」となっていくこともがあります。最近は、そういうところのお手伝いをする機会も多くなってきています。

ーーなるほど。今回メディアを立ち上げた理由にすこし強引につなげるけど、地理的な理由だったり、言語の壁だったり、なかなか海外の事例や文化に触れる機会が少ないのが日本企業ですと。だからこそ、知的好奇心が刺激されてインスピレーションを得られるような疑似体験メディアをアンカースターはつくりたいんですね。

めちゃくちゃ言わせているみたいじゃないですか。そうですね、そんな感じです。あとは、僕にも調子が良い日と、そうでもない日があって、ものすごく面白い話をしたいのに、それをうまく伝えられる日と、そうじゃない日があります。だから直接会って、お話しする以外の方法でも、しっかりと丁寧に、想いをこめて、お伝えしたいことを読んでいただいたり、聴いていただいたりできる仕組みがつくれるといいかな、と思いました。

ーー太郎さん、700年以上前にあった東方見聞録って、知ってますか?

よく行ってました。表参道の東方見聞録。

ーー居酒屋じゃなくて書籍のほうです。結局、あれって当時のヨーロッパから見たファー・イーストだったわけですよ。東の方角はどうなってるかっていう。アンカースターが目指しているのって、そういうことなのかなって思いましたが、どうですか?

うーん、海外の最新事例を取り上げているメディアはもうすでにあるし、そういう記事をいくら読んでも海の向こうの異世界感が強いと思うんです。そういうものを読んで、「よっしゃ、明日からバージョンアップしよう!」って自分ごと化するのは、なかなか難しい気がします。

アンカースターが日本企業の現場の人たちだったり、経営者の方と、じっくりお話をするときは、夕方からはじめて「夜疲れるまで話す」っていうのをよくやるんです。場所と弁当もこちらで用意して。

そうすると、4時間経った頃に突然「今までの3時間59分のものがやっと繋がりました!」ってなったりするんです。「え、今!?」「今までの伝わってなかったの?」みたいな。「なるほど、この言い方じゃないと伝わらなかったんだ」とか「この3時間59分があって初めて伝わるんだ」ということがよくあるんです。

ーー今そういう場がないから余計に大事な話ですね、これ。

海外ではどうだっていう情報のシャワーはもちろん大事ではあるんだけど、むしろ、この3時間59分的な、丁寧な、色々な方向からそれを見ようとすることで得られる「疑似体験」ができるような、心身にしみわたる東方見聞録を目指したいんです。

東方見聞録っていう例えをつかうなら「東の方角にはこんなものがあるんです~」だけではなくて。もっと、日本からみてそれをどういう風に解釈したらいいのかも含めた、味わい深いと言うか、立体的と言うか、解説付きというか、練習問題付きというか、そんな東方見聞録がいいんです。

ーーめちゃいい話だ。だから初回の対談もこんなに長いわけだ。

はい。Yahoo!ニュースのコメント欄とか、パーッと流し見すると、突然そのニュースが、立体的に見えてきたりすることがあるじゃないですか。これが重要だと思うんです。

それをいつもなんとか、みんなに協力してもらって、資料にまとめて、うまく表現しようと試行錯誤していますが、こういう記事でも伝えられるようになると、もうちょっとだけ立体的にコトを「体験できる」んじゃないかと思うんです。アンカースターの東方見聞録が目指すのは「疑似体験版」です。多分。

ーー情報の立体化っていうとVRみたいだけど、でも一つの状況を多面的に見るっていうのは質的研究の世界でも近年、大事にされていることですね。

将来すごいVRができて、東方見聞録の中でボタンを押すとふわっとその世界に入れて、マルコ・ポーロがした体験を、自分が安全に体験できるようになれば良いと思うんですけど、まだそれはできません。

お金出して、時間とって、旅行に行って、見て触って、学んで、っていうのを好きなだけできる人は、特に日本のビジネスパーソンにはなかなかいないと思います。でも体験しないと、わからないですよ。ドリアン食べたことないのに、どんな味か説明できないです。

アンカースターチームの面々は、それぞれユニークな幼少期を過ごしていたり、いわゆる外資系企業と日本企業の両方を経験していたり、なかなか特殊な特技を持っています。新しい体験を通じて未知の価値観を得る、ということを何度も体感したことがあって、その感動を熱く語れるメンバーが揃っています。自分が体感した新しい経験を、一生懸命、丁寧に「疑似体験」という形で提供する。その「疑似体験」を、メディアという方法でも補おうとしてみたい。そんな想いで、このメディアづくりにチャレンジしようとしています。

ーーありがちな海外のニュースである必要がないなら、アンカースターの日々の動きを伝えてもいいんじゃないですか?

いいですよね。たとえばアンカースターが一緒に取り組んでいる、ある日本企業とのチャレンジを紹介したりしてもいいと思います。他の会社の取り組みを知って「できた!」という感覚を、疑似体験してもらえるかもしれません。

具体的に言えば、社内の壁が突破できなくて試行錯誤を繰り返している方が、他社の似た境遇にいる人の事例を通じて、壁を突破できた瞬間を疑似体験することで「なるほど、これだけの時間と労力と、企みが必要だったんだ」ということを知るきっかけになりますよね。

他にも例をあげれば、大企業に新卒で入社し、一度も海外出張や出向を経験できていない人もたくさんいますよね。言い方は悪いかもしれないけど、入社してから、一度も外の空気を吸ってない。

それなのに、外の人たちに向けてサービスをつくってるし、外の人たちに負けそうになっていたりします。なかなか難しいですよね。自分とは違う価値観を持っているお客様を想像するというか、シミュレーションしたくても、シミュレーターが未熟というか、情報が足りない。かといって、会社を飛び出して、外の世界に今すぐ遊びにいけるわけじゃない。

少しでも、外のフレッシュな空気を吸っている感覚みたいなものを、文字やポッドキャストなどで表現できないかな、と思っています。とても忙しくて、一生懸命に様々なプロジェクトに取り組まれているみなさんに、数分だけでも、ちょっと新鮮な、もしかしたら、まだ吸ったことがないどこかの空気をお届けしたいと考えています。

ーーアンカースターにとっても、僕は外の人であり、そこに価値があるのでしょうか。

それはありますね。なにかが伝わらない理由は、外から言われないとわからないんです。「それちょっと雑すぎません?」とか「皆が太郎さんみたいに想像できるわけじゃありません」とか「こうやれば楽しめると思ってるのは、太郎さんだけですよ」みたいな。

こういうことを言ってくれる人は、社内にはいないので。アンカースターのやろうとしてることを、川辺さんみたいな人に「それじゃ伝わらないよ」と言ってほしいのです。「じゃあどういう風にしたら伝わるかな?」って話もしていきたい。

なにかを伝えたい僕がいて、それじゃ伝わらないよっていう川辺さんがいて。さらに、よくわかりませんでした、という読み手の人もいて。この構造が複雑に幾度も連鎖していればしているほど、実際は疑似体験感が得られる確率が高まると思っています。

この記事も、僕と川辺さんが喋ってることを誰かが読んで「まったくわかんない、あなたたちの話」って、外から教えてもらえるかもしれないじゃないですか。

ーーそうですね。編集長の仕事としてはまったく伝わらないのもどうかと思いますけど、その通りです。

まったくわからなかった人をゲストとして呼んで「なんで僕らの話しは伝わらないか」っていう話をしてくれて、それを記事にしたら伝わるかもしれないね。

そうやって色々工夫しながら、ああでもない、こうでもない、正解はないいだろうから、諦めずに、色んな方法で、なにかを伝えようとし続けるアンカースターでありたいと思っています。

ーー外からの視点を取り込めって言っているアンカースターが、僕のような外からの視点を取り込んでいるっていうのが僕はすごく、筋が通ってるなと思いました。ありがとうございます。

アドバイザー、顧問、特派員、研究員、なんと呼ぶのかわかりませんが、そういう様々な角度から、情報をインプットしてくれる人が、普段から周りにたくさんいて、外からなにがどう見えているかをそれぞれ教えてくれるような、そんな会社や、組織が今後、増えていくと思います。
その一つと言ったらおこがましいですが、アンカースターみたいな会社が近くにいるとなかなか楽しいよ、と、思ってもらえたらいいな。「あいつら、いつも新しいことを熱心に話してくるんだよ」みたいなね。

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