疑似体験:オフサイト [ENG] Experience: Offsite

語り手
申梨奈
聞き手・編集
川辺洋平
テキスト・写真・イラスト
金巻未来
英訳
関ソフィア

オフサイト(offsite)は、英語で「離れた場所」を表す言葉です。欧米では、あえて社外で行う会議やアクティビティのことをオフサイトと呼び、多くの企業が、年に数回、定期的に開催する傾向にあります。オフサイトでは、いつものオフィス(オンサイト)から離れ、環境を変えることで、より議論に集中できたり、話したことのない仲間と話せたり、非日常空間ならではの新しい刺激が生まれます。

今回は、2018年〜2021年に森ビルからアンカースターに出向していた申梨奈(しん・りな)さんにお話を伺います。申さんは、出向期間中、アンカースターで数々のオフサイトを経験しました。森ビルに帰任して半年が経過した2022年1月、所属する部署ではじめてのオフサイトを企画、実施しています。

ーー申さんが初めてのオフサイトに参加したのは、いつですか?

アンカースターに出向してすぐでした。それまで、オフサイトという言葉は見たことも聞いたこともなかったので、「いつもと違う環境でチームアクティビティをする」と説明を受けたときは、「社員旅行かな?」と思っていました。

申梨奈ーー演奏活動に没頭した学生時代を過ごしたのち、2014年森ビル入社。経理部、プロパティマネジメント事業部を経て、アンカースター株式会社に出向。スケートボードパーク建設プロジェクトやWorkplace Muralプロジェクト、アンカースターのオフィス拡張などを行った。森ビルに帰任した現在はオフィス事業部企画推進部にて、街全体をワークプレイスと捉えた新たな商品企画を担当。最近のブームはワインと料理のマリアージュを探すこと。

一番最初のオフサイトは、東京五輪で、サーフィン競技の会場となった千葉県一宮の、海の近くにあるホテルをまるまる貸し切って、社員のみんなで一泊しました。まさに社員旅行だ、楽しみ!と思っていたら、最初から最後まで徹底的に時間の過ごし方がプロデュースされていて、驚いたのを覚えています。

ーーはじめて参加したオフサイトにはどんな企画がありましたか?

例えば、「本気のBBQ」という企画がありました。これは予め決められたチームごとにスパイスから作る本格インドカレーや専用の鍋でつくるシーフードパエリアなど、本場のレシピの再現をするというものです。私は太郎さん(アンカースター代表の児玉太郎)と2人チームでインドカレー作りに取り組み、これがきっかけでいろいろとお話ができる様になりました。後でわかったのですが、当時私は出向直後で太郎さんと話すのに気後れする状態だったため、企画者は2人がチームになるように取り計らってくれていたんです。それまでは、業務上必要なことしか話さなかったので、非常に良い機会になったと思います。

その他にも企画は盛りだくさんでした。その時に宿泊したホテルの宣伝ポスターを勝手に制作しよう!という企画では「この宿泊施設で体験できる全てのこと」を1枚の写真に盛り込む挑戦をしました。各自の役割が事前にプロデュースされていて、演技指導もはいりながら、時間をかけて一枚の写真を撮影しました。

オフサイトの一企画「ポスター制作」の様子

他にも、事前に東京の花火問屋で仕入れてきた大量の花火を使った花火ショーを披露しなければならなかったり、とにかく1回のオフサイトの中に企画がてんこ盛りでした。オフサイトとは、想像していた社員旅行とは比較にならないほど、事前準備が入念で、練り上げられたものなんだなと感じました。

ーー初めてのオフサイト、楽しそうですね。アンカースターへの出向中には他にどういうオフサイトを体験しましたか?

楽しいものばかりではありません。六本木ヒルズの49階にある、アカデミーヒルズという眺望の良い会議室で、アンカースターの事業計画を丸一日かけて真剣に議論したこともありました。先ほど紹介した宿泊を含むオフサイトだけでなく、あえてオフィスとは違う場所で集中議論をするという、いわゆる「オフサイトミーティング」も、何度も経験しましています。

ーー森ビルに帰任したあと、その経験を活かして、社内でオフサイトを企画されたと聞きました。どうして森ビルでもオフサイトを企画しようと思ったんですか?

一番の理由は、私も含め、コロナ禍の最中に、新たに部署に加わったメンバーが多数いたことです。帰任した部署には40名弱のメンバーがいるんですが、そのうち約10名が、新入社員や、社内異動で加わった新しい仲間でした。

同じ部署のメンバー同士でも、オンライン上でしかコミュニケーションを取ったことがなかったり、業務以外では全く話したことがない人もいて、それをどうにかしたいという気持ちが動機となりました。

ーー所属部署ではオフサイトに初めて参加する人も多かったと思いますが、段取りは大変でしたか?

実は、オフサイトをやろう!と言い出したとき、チームビルディング(メンバー同士が仲良くなってチームワークを発揮できるようになること)という目的は決まっていたものの、内容は全く決まっていませんでした。

オフサイトの実施が確定した後は、日程をおさえます。部署全員が空いている日というのはそうそう無いので、余裕を持って日程を調整しました。

次に、オフサイトを開催する場所を考えます。ある程度オフィスから離れたところを探しました。少し離れないと「遅れていきます」とか「ちょっと抜けます」という人が発生しそうだと思いました。それに加え、非日常感を味わえるような環境を探していました。そんな中、ご縁により、天王洲にある素敵なスタジオスペースを貸してもらえることになって、まさに理想の場所が見つかりました。

ーー中身はさておき、まずはやるぞ!って決めてしまうのも、大事なことですね。オフサイトの中身についても知りたいです。

チームビルディングという目的は決まっていたものの、その中身を詰めていくのは少し大変でした。
アンカースターにも協力してもらい、色々と議論した結果、オフサイトのテーマは「想像力」になりました。私の部署では、新しいものを「企画する」「生み出す」仕事をしなくてはならないので、みんながもっと想像を膨らませながら仕事ができるようになったら良いな、という想いから、このテーマを選びました。

話し手(左):申梨奈  聞き手(右):川辺洋平

想像力を身につけるというよりは、「そもそも想像力ってなんだろう?」「どうやって想像力を使うんだろう?」ということを、みんなで体感して、話し合える時間にしたいと考えました。そこで、とにかく想像力をたくさん使うゲームを設計しました。

ーー想像力を使うゲーム、面白そうですね!具体的には、どんなゲームですか?

図形伝達ゲームです。図形伝達ゲームは、3人1組になって、1人が複雑な図形のお題を見ながら、それを言葉だけで説明し、説明を受けた人が、同じ図形を紙に描こうとするゲームです。以下のようなルールでゲームを実施しました。

ーー
<ルール>
①チーム内で1人の説明者を決め、説明者だけが紙に印刷された図形を見ることができる
②説明者はその図形を、口頭だけでチームメンバーに伝える
③チームメンバーは、説明者の説明をもとに紙に図形を描く
<注意事項>
・説明を聞いて、図形を描く時間は10分間
・説明者はチームメンバーに背を向けて、チームメンバーの反応を見ることはできない
・チームメンバーは一切の声を発してはいけない
ーー

これが結構難しいんです。伝達してほしい図形も、あえて説明が困難になりそうなものを選んでいます。説明者は、聞き手であるチームメンバーを想像しながら、とにかくわかりやすい言葉で説明しようとするんですが、その表現方法が、それぞれユニークで面白いんです。「紙の左上の角から〜cm右に」とか「指三本分の〜」とか「いま持っているボールペンの長さの半分くらいの〜」とか。

ゲームで出題した絵の中のひとつ

ーーこの図形を言葉で説明するのはとても難しそうですね。ゲームの実施にあたって何か工夫したことはありますか?

ゲームを一回終えるごとに、チームごとに戦略を話し合う時間を設けたり、このゲームで学んでほしいことを説明したり、活発なコミュニケーションが行われる時間をたくさん挟みました。

グループごとに戦略を立てている様子

そうやって戦略を立てていく中で、チームごとに様々な共通言語が生み出されていく様子が印象に残っています。例えば、理系が多いチームでは「座標」を共通言語にして、みんなが座標を使って説明が理解できるように認識を合わせていました。他にも、紙を細かく折って、折り目の数を共通言語にしているチームもありました。

紙に折り目をつけていたグループ

最初は図形の説明が難しかったけど、共通言語を活用することで、チーム内の認識が一致して、コミュニケーションがしやすくなっていく。その感覚を実感することができたのは良かったと思っています。

ーー会場の雰囲気はどんな感じになるものなんですか?盛り上がっていましたか?

図形伝達ゲームは、2時間の間に3回、異なるお題を使ってゲームを実施したんですが、毎回盛り上がっていました。

図形を説明する側も、描く側も、お互いに想像力を使うし、戦略タイムでは、議論をすすめるリーダーシップも必要だし、新しい手法にチャレンジする柔軟性も必要だし、という感じで、立体的な時間を楽しめていたと思います。

真剣に図形を描いている様子

ーー図形伝達ゲームに限らず、オフサイト全体の企画を準備する上で大変だったことはなんですか?

タイムスケジュールの設計が一番大変でした。移動を含めて、全員の時間を12時から18時まで押さえていたんです。

実際にやってみるまで、時間がどう伸びたり、押したりするのか、どんな問題が起こるのかわかりません。ここで休憩しないときついかな、とか、天王洲をお散歩したいかな、だから20分は休憩ほしいかな、いや長いかな、ゲーム2時間は疲れるかな、とという感じで10回ぐらいは1日のスケジュールを組み替えたと思います。オフサイト企画の準備こそ、まさに想像力が必要でした。

あとは、はじめての取り組みなので、みんながしらけずに盛り上がってくれるかわからなかったことが一番心配でした。

ーーしらけてしまうかどうかは、事前にわからないし、怖いですよね。しらけないように、どんな工夫をしたのですか?

準備の段階から積極的に部長を巻き込み、リーダーがオフサイトの一番の賛同者である、という状況を作りました。部長から、課長や部署のみんなに対して、「こういう企画をやるから参加してね!」と強く言ってもらえたのはとても大きかったです。それを聞いた課長も同様に全面的に企画をサポートしてくれたので、とても心強かったです。

今回のオフサイトの目的について説明している様子

あとは、場の雰囲気を、いかに盛り上げるかも考えました。とても素敵な会場をお借りしたし、普段は買わないようなお菓子を探してきたり、ゲームの景品として私の好きなこだわりワインを用意したりしました。また、オフサイト後も、近くのお洒落なレストランで懇親会を用意しました。

ーーみんなが楽しんでいる姿を想像しながら、鍵になる人の巻き込み方を考えるのは大事ですね。今回のオフサイトを経て、次に活かしたいと思った点があれば教えて下さい。

次回は、部長や課長以外にも、企画を手伝ってもらえる協力者を事前に募りたいと思っています。サクラというと語弊がありますが、一緒に企画ができたら、当日も参加者として現場を盛り上げてくれることを手伝ってくれるかもしれません。また、協力者にとっても、オフサイトを企画をすることは良い経験になると思います。

ーー今回のオフサイトが無事に終わって、改めて、特に大変だったことや、強く感じたことがあれば教えて下さい。

やっぱり目立つじゃないですか。オフサイトやります!といって、前に出て喋って、何だか偉そうにいろいろ企画して、プロデュースしてというのは目立つと思います。それは少し怖かったですし、なかなか勇気がでなくて、そわそわしました。

ーー実際にやってみて、怖さはなくなりましたか?

オフサイトがスタートしてから、最初は、みんなが笑ってるか、楽しそうか、無関心なのか、とても気になりました。コロナ渦の最中に異動してきた私にとっては、部署のみんながリアルで一堂に会するのを見るのも初めてで、どんな顔をして参加してくれるのかは、なかなか事前に想像つきませんでした。

でも、いざ勇気を出してやってみると、どこかで吹っ切れて。みんなとても盛り上がってくれて、私もしっかり楽しむことができました。

ーー申さんがオフサイトを企画したことで、誰でもこういうふうに動いていいんだ!っていう雰囲気が生まれたり、主体的に動こうとする人が増えたり、変化のきっかけになったら良いですね。

はい、社内からも、たくさん好意的な意見をもらえました。

「共通体験ができたのがよかった」とか「話したことのない人と仲良くなり仕事がしやすくなった」とか、色々ありました。他の部署にも横展開できたらいいなと思いますし、今回はその大きな一歩になったかもしれません。オフサイトをやってみて本当に良かったと思っています。

ーー最後の質問になりますが、申さんにとって、オフサイトとはどういうものですか?

オフサイトの効果は色々あると思いますが、私にとってはやはり、チームビルディングです。

私がアンカースターに出向したばかりであまり馴染めていなかった頃、オフサイトがきっかけでチームと仲良くなれたように「なんでも言い合える関係になるための第一歩になるイベント」であることが、オフサイトの持つ魅力だと思います。なんでも言い合える仲間が増えれば増えるほど、仕事が楽しく、働きやすい職場になると思うんです。

ーーこの記事を読んで、オフサイトにチャレンジする人や企業が増えたらうれしいですね。お疲れさまでした!

ぜひ多くの方にチャレンジしてほしいです。とはいえ、年末年始の休暇中、オフサイトのことが夢にまで出てきてしまうくらい、企画と準備は大変でしたけどね!笑

聞き手(左):川辺洋平 話し手(右):申梨奈

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